界隈一のとんがり酒場で和む――KAMA PUB その2――

前回に引き続き、KAMA PUBのコンセプトを探るため、マネージャー兼萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社事務局長の牧憲一さんに話をうかがった。

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マネージャーになる前は、何をしていたのだろうか。

「半年ほど、失業してまして、専業主夫をしていたんです。中一の息子と小三の娘がいますが、午後に娘が帰ってくると『おかえり~』って出迎えて。楽しかったです。中一の息子は『お父さんいつから働きはじめるの』と心配そうでしたね」

筆者も半年失業していたことがある。部屋を出ずに暮らし、自立神経失調症になって目が回り、押入れに入ってはやすらぎを得ていたことがある。親近感が俄然わいてきた。

失業のきっかけは何だったのだろう。

「市会議員に立候補して落選しちゃったんです。今から5年前に初めて挑戦したんですが、橋下維新の風に吹き飛ばされまして。『いつかこの風はやむやろ、辛抱強くがんばれ』と言われて浪人しとったんです。去年の春もう一回挑戦して、歯が立たなかったんです」

失業といっても市会議員落選ですか。失業は失業にかわりないとはいえ、えらいことになってきた。選挙に再挑戦の予定を訊くと、「金輪際それはない」という答えだった。

「議員になることをめざすと、議員さんと同様に行動することを求められます。市会議員として身につけないといけないスキルや知識を身につけることに集中するでしょ。大阪市の動きや地方自治体のいろんな取り組みを敏感にキャッチして、取り入れる自分になるじゃないですか。政治家として今ここにある問題をどうとらえるか考えるし、そういうことが話される場へ行く。それが日常になっていたんですけど、現職になれず浪人していると自分がつけた力を発揮する場がないんですね。フラストレーションがたまるんです。『学んでばかりで、物事を実現することから遠ざかっているなぁ』という気持ちになったんです。世の中をかえていくことを実現できない自分に嫌気がさして、選挙にはもう挑戦しないと決めたんです」

大阪維新の会の橋下元市長が推進した西成特区構想の一環を担うため、設立された萩之茶屋周辺地域まちづくり合同会社で仕事をするにあたり、選挙で負けたことはひきずらなかったのだろうか。

「それは、全然ないですね」

選挙というのは、落ちても通ってもクセになるところがあると聞く。それだけ強烈な体験なわけで、2回であきらめてこだわりなく次のステージへ進むというのは、牧さんのフットワークの軽さと内に秘めた力の大きさとを示しているのかもしれない。

選挙に立候補する以前は、同和地区にある人権文化センター(現在の市民交流センター)で、教育関連の相談員を10年にわたり務めていたという。

「しんどい家庭ほど、いろんな課題を抱えている。同和対策が実施されて、差別を受けることによって貧困を強いられてきた人たちに対して施策が打たれましたので、貧困からぬけ出していく人たちがもちろんいて、自立していくわけなんですけど、いっぽう生活保護でループしている家庭がある。そこで、子育てに関する価値観を変えたいんでいろんな情報を出して話を聞いたりする講座を開くんですけど、しんどい家庭ほど届きません。『あんた、もうしっかりしているから来んでええで』というような人は来るけど。どうしたら伝わるか、集まってもらえるか、ほんとによく考えました」

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スタッフに接客を教える牧さん。相手の人となりを理解した丁寧な指導。

貧しく生活が苦しいほど情報が伝わらないのは、釜ヶ崎でも同じことだ。当事者と相談員とでは使用している言葉が異なり、世界が違ったように見えているのだ。そのことに気づき、通じる言葉を探して、支援についての先入見を疑い始める時から、社会に必要とされる活動がはじまる。

だが、2006年に同和事業の見直しが始まり、事業は継続できなくなる。

「行政に頼って事業をしていると、いずれ切られるということは、骨身に沁みています」

KAMA PUBの運営主体である萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社は、不法投棄ごみの監視活動などで、ホームレス生活者への就労機会の提供を、大阪市西成区から事業受託して実施している。いつか訪れるかもしれぬ事業費の削減や廃止を乗り越えて、会社と活動が存続していくために奮闘し、合同会社は今の人材の確保に成功したのかもしれない。

「青少年会館で居場所づくりができなくなってからは、ジャンプっていうんですけど、小さなNPOを立ち上げて、中学生・高校生の勉強会を開催しているんです。中高生をつなぎとめるのに、バンドをやったりしてました。KAMA PUB店長の阪本も、バンド活動の卒業生なんです。いわば後輩を呼んでしまったわけですし、メシを食わせていきたいとは思います。大学や簡宿組合と連携して、後継ぎのないドヤを旅館業法にのっとってゲストハウスに変えたりして、地域の財産を集めて人が寄ってくる仕組みを作りたいんです」

そのために、KAMA PUBはこれから何を仕掛けていくのだろうか。

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たこ焼きパーティの夜、牧さんの釜ヶ崎での居場所づくりは始まったばかりだ

「釜ヶ崎は日雇のおっちゃんらの街やから、外から見てる人たちにとっては、釜ヶ崎は行く用事のないところだと思います。外から釜ヶ崎に来るとしたら、『立ち飲み屋が安いから』とか、『朝から飲めるから』とか、そういうかんじでしょう。でも、その切り口以外に『行ったらおもしろいところあんねん』っていう場所の一つになりたい。KAMA PUBに行けば、『英会話ができる』『海外の友だちが作れるかも』という情報を発信して、外国人との交流の場を作っていきたいんです。片や外国からの観光客は『日本人を知りたい』と思っています。折り紙やけん玉をするイベントを企画して、チラシをホテルに置いてもらってます。釜ヶ崎には足を踏み入れてはいけないディープな場所っていう、マイナスイメージがまだまだ根強いですね。釜ヶ崎に住んでいる人はろくな人たちではない、という悪いイメージが定着してしまっています。『偏見です。まちがってます』と啓発するよりも、実際に店をやって釜ヶ崎へのイメージを客自信がかえてくようにつながったら面白いなぁと思っています」

人が集まる仕組みを作り、つながりを活性化し、地域を盛り上げていく。牧さんの人生には、つきない情熱の地下水脈が流れ続けている。

KAMA PUB
住所|大阪市西成区太子1-4-2太子町ビルディング1F
営業時間|日月火17:00-23:00 水木金土17:00-26:00
定休日|無休
電話|06-6537-9096
FB|https://www.facebook.com/kamapub9096
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